へびつかい座 Ophiuchus(Oph) 


 私が星座を案内する際によく聞かれるのが、星座早見版と実際の星空のイメージが合わない、あるいは合いにくいということです。つまり実際の星空は、星座早見版よりスケールがでかすぎるということです。北斗七星など、目立つ星の並びがあれば、星座は分かりやすいかもしれませんが、大きいけど目立つ星のない星座はなかなか分かりにくいものです。へび座とへびつかい座は夏のその代表みたいな星座です。
へびつかい座はさそり座といて座の北側に大きく広がる星座で、実は形は比較的整っているのですがなにぶん明るい星が少ないので、なかなか分かりづらい星座です。その中で、へびつかい座の頭の辺りで輝いている2等星のラスアルハゲを頂点とした将棋のこまのような星の並びを南にたどっていけば、おおよその形がつかめると思います。そしてその底辺付近の両側より北に脇に伸びている星の並びがへび座です。
へびつかい座のモデルは、アスクレピオスという死者をも蘇らせることが出来るという名医です。アスクレピオスはアポロンの息子でケイローンのもとで成長し、医術についてはケイローンを凌いだと言われています。しかし死者をも蘇らせる術を身につけたということは死者がいなくなる(実際、何人かの英雄を蘇らせたと神話は伝えています)ということで、そのことにあわてた冥界の神プルートは、兄であるゼウスに「生死の定めを勝手に変えられたら困る」と訴えでだので、ゼウスもやむなく雷でアスクレピオスを撃ち殺しました。しかしその功績において彼は星座となったそうです。
へびつかい座とへび座は天の川の脇にドンと広がる星座なので見ごたえのある球状星団(M5、M10、M12など)がいくつかあります。またへびつかい座にはバーナード星という恒星としては非常に早い速度で動く星があります。そもそも恒星とは恒(つね)に一定の場所にある星という意味ですが、このバーナード星は地球から6光年の位置にあり、1年間に10秒角のスピードで動いています。もう少し具体的な感覚で言うと、108km/sのスピードで私たちの太陽系の方向に近づいているのです。ただしこの星は非常に暗い星(9.5等)なので、望遠鏡でないと見えません。約1万年後には地球からおよそ3.8光年の場所を通り過ぎるといわれています。